リズと青い鳥

公式サイト:http://liz-bluebird.com/

全体を通した雑感

一言で紹介するのが非常に難しい映画ですが,それでも一言で言ってくれと言われたら,「これは関係性についての映画です」と紹介することにしています.

吹奏楽部に所属する高校3年の女性2人,傘木希美と鎧塚みぞれを中心にして,人と人との関係性を丁寧に描き出しています.初見ではその張り詰めた空気に圧倒され,繰り返し視聴する過程では細やかな描写群に隠された意味に気づいて再び頭を悩ませる.良い意味で放っておいてくれない,良い作品です.

主人公が女性2人であることからでしょうか,内実を知らない人から「これはいわゆる百合に分類される作品か」と問われることがあります.百合の定義にも依るところ大です(し,私はこの言葉をめぐる議論に蒙いため,深入りすることは避けたいのです)が,私自身はこの映画に対して「百合」というタグを付けることに強い抵抗を覚えます. もっと正確に述べるならば,この映画で描かれる関係性にわかりやすいタグをつけることそのものが抵抗感の対象であるというべきでしょう.

この映画で描かれている関係性は,適当なタグのもとにすっぽり収まるほど小綺麗であるとも,簡単に整理できるとも思いません.傘木希美から鎧塚みぞれへ向けられた感情と,鎧塚みぞれから傘木希美へ向けられた感情は,それぞれその性質を極めて異にしていると見立てるのが自然でしょう.更にその感情自体も,決して整理されきったものでもなければ,未整理の状態で心の中に放っておけるほど小さくもない.その全く異質な,そして当人たちにとっては非常に大きな,2人の感情のすれ違いが1つのテーマだと思います.かように複雑に絡み合った感情のゆらめきを,適当な枠に押し込むことはどうにも乱暴なおこないに思われてなりません.

とはいえ,「どんな映画なのですか」と訊かれて一言で答えられないのも時には(というか,大抵は)不便です.そんなわけで仕方なく,私は「これは関係性についての映画です」と答えるようにしています.


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