卒業間際の私信

修士の学位記伝達式の夜,専攻の先生から貰ったメールに対する返信. このメールを書いていたときに感じていたひっかかりは, 飲み下せない小骨のように,今も私の中に残っています.


xx先生

写真ありがとうございました.

審査が終わった際に,私が博士に進学しないことを告げた時の 先生の落胆した様子が,私の予想していたものでありながらも 心苦しく感じられたのをよく覚えています.

研究は嫌いではありません.むしろ好きな方なのでしょうし, 色々な方々から博士に進学しないことを惜しまれました. ですが,2年間を投じて見えたもの,まだ見えないものを自分の中で 並べてぼんやり考えたとき,一度アカデミアから出てしまうという「一見非合理な選択」が, 長い目で見たときに,いちばん博士課程へ舵を取りやすくしてくれる気がしたのです.

私は (残念なことに?) どうやら勉強のほうが好きですし, 内定した民間企業に行くだけで学振のおよそ2倍の所得が得られてしまうという事実は 金を稼ぐことにさしたる興味のない私にとってすら,あまりに重たかったというのもある. 直接進学することは,知的好奇心の充足という意味では間違いなく局所最適ですが, それをやらないことではじめて見えるものがあるという確信に基づいての選択です.

幸いなこととして,私がやっていた「リーマン幾何の機械学習への応用」は, yy研究室において,私の手を離れてなお続く大きな研究の流れをつくっています. yy先生自身もご興味をお持ちですし,先輩や後輩が私を引き継ぐ形で 関連した研究たちを精力的に進めているのを見ています.

そういった現場から一度離れることに一抹の寂しさはありますが, それよりも,私がやったことが,私を越えて広がってくれているという事実への 満足感のほうが今は大きいような気がします.…この歳にしては,無欲が過ぎると言われそうですが.

長々と失礼いたしました. 先生におかれましても,お身体の方ご自愛ください.

わからないなあ,と仰りながらも 先生が笑顔で私の研究に興味を示してくださっていたこと,嬉しく思っています.

創造情報学専攻 榎田洋介


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